昨日は「本を読むな」という「読書論」を紹介しました。その後私は本の効用についてあれこれ考えてみました。そうしたら「本棚の効用」に気がつきました。
食べ物と同じで、本も読み過ぎや生飲み込みは逆に身体をこわしてしまいます。
とはいえ、人類最大の発明というか人類だけの財産は「文字」でしょう。
その文字を使って記録し、時空を超えて歴史や知恵を伝えるのが「本」であることでしょう。
でも人が一生に読める本はとても限られています。
小さな図書館にある蔵書の三分の一も読んだという人がいるなら、よほどの学者か活字中毒者でしょう。
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そこで私は思ったのです。
本の価値とは「その本を読む」ことだけではない、と。
ずら〜っと本棚に並んだ本の背表紙を眺めることも、読書に匹敵するくらい大事なことだと思ったのです。
それは世界の広さ、深さを私たちに想像させてくれるからです。
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私が子供だった頃を思い出します。
私は小学校に入る前から「漫画雑誌」にはまりこみ、そのおかげで同輩たちより一、二年早く文字を読めるようになりました。
やがて漫画以外に活字の本にも惹かれだし、少年少女向けの本を読みあさるようになりました。
食料品店を営む母親はろくな学歴もない劣等感もあって、どんなにお金がひもじくても子供には好きな本を惜しみなく買ってくれました。
やがてわが家の二階の狭い廊下には4つの大きな本棚が並びました。
それらの本棚には物語やら百科事典やらノンフィクションやら新書やらが、背中を見せて仲良く整列していました。
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実は今でも思い出せるのです。
本棚に、どういうタイトルの本がどのように並んでいたかを。
そして背表紙を思い出しながら、その本の中身も甦ってくるのです。
本棚に並んだ本の背表紙が「記憶のインデックス」になっているんですね。
同じように、学校図書館にあった本の背表紙やなじみの本屋さんに並んだ本の背表紙もおぼろげながら思い出します。
どの本を借りようか、どの本を買おうかと背表紙をあれこれ眺めながら、知識の世界の大きさ、広さを感じ圧倒されたものです。
まるで広い海を前にして砂浜に立っているような、とても高い山から下界を眺めているような、そんな感覚です。
そしてその時読みはしなくても、いったいそれらの本には何が書かれているのだろう?という関心はずっと持ち続けていました。
こんな思い出がありますから、本はその中身を読むだけでなく、その背表紙を常に眺められるようにしておくことが大事と、うすうす思ってはいたんです。
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やがて社会人になり、本を読む時間が少なくなってきた自分に不安を感じ、体系的に文学作品を読み直してみたいと思いました。
社会人成り立ての乏しい給料から月賦で筑摩書房の日本文学全集、世界文学全集を購入しました。
狭い借家に三つの本棚、全部で百巻くらいの文学全集もそこに収まり、読むべき本のインデックスのように背表紙が並びました。
その頃列車を使う出張があれば必ず一冊持って行き、行きと帰りの列車内で読み終えたものです。
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やがてさすらいのサラリーマンとして何度も職を変わり、住処を変わりしましたが、本棚と本は愛馬のようについてきました。
ところが。。。
十数年前に起きた大地震の後、本棚の本が飛び出してケガをしないようにと、本を押し入れの中にしまってしまいました。
しかも押し入れから飛び出してこないようにと開きにくい仕掛けもして。。。
そんなわけで現在、わが家にある本棚はその後に買った本と雑多な小物置き場になり果てているのです。
しかし代わりに会社の私の(小さな)部屋に小さな本棚を置き、三年前から買った本はここで背表紙を見せる機会を与えられてはいますが。
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こんなことを書くのはこの前孫たちが来たときにふと私の本棚の思い出を思い出したからです。
本好きな子供に育ってほしいと、女房が毎月孫向けに本を定期取り寄せしています。
私もたまに図鑑などを買ってあげていました。
しかしどうも母親が増える本を、古いオモチャと一緒に押し入れ方面行きのバスに乗せているようで。。。
孫たちも、本よりもテレビだゲームだタブレットだみたいな感じで劣化が日々進み。。。
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しかし、もし家に本棚があって背表紙を常に眺められる環境でさえあれば、 きっといつかこう思うはず。
「右の本棚の上から三番目には虫たちのことを書いた本があったな〜、その上の段にはロビンソンクルーソーがあったな〜」とか。
そんな「記憶のインデックス」をつくるお手伝いをしてあげることが、親として大事なんじゃないのかな〜と思うんです。
それなら子どもたちに「本読みなさい!」とせかさずに済むので気持ちも楽です。
それと親が「子供にこの本いいな〜」と思う本を、時々勝手に補充してあげることもいいなと思うんです。
子供に何か質問されたら、「本棚の三段目にそのこと教えてくれる本あったんじゃない?」とか返すのも効果的ですね。たぶん。
本棚も大きな一冊の本、本に目次があるように、本棚の目次は本の背表紙です。
チャンチャン。
※すべての写真はネット上からお借りしました。