松尾スズキさんと『かむろば村へ』

 偶然のつながりで、とてもおもしろいタイトルの本を読むことになりました。それは松尾スズキ著『現代、野蛮人入門』という本です。
 きっかけは、『ぼのぼの』で有名な漫画家「いがらしみきお」さんでした。

 彼は私より一つ下で、私のほぼ地元といってもいい宮城県加美町のご出身です。

 彼の漫画『かむろば村へ』が、松尾スズキ氏によって来月、『ジヌよさらば〜かむろば村へ〜』という映画になって上映されることを知りました。

 ジヌとは宮城県の方言で「銭」のことです。(正確には「ジェヌ」と発音します)

  →予告編

 なんかおもしろそうなので『かむろば村へ』全四巻を買いました。

 『かむろば村へ』これは超傑作です!

 わが地方の方言がそのまま出てくるので臨場感もたっぷりです。

 とって〜〜もおもしろくて深くて、ちょっと色っぽくて、すべての巻を続けて二度読んでしまいました。

 こんなに夢中になったのは実に久しぶりです。

 一、二巻目は大笑いの連続、三巻目から四巻目はもうハラハラどきどきです。

 読み終えた後、虚脱感ととともに重くて大事な何かが心に残りました。

 この漫画については、あらためてブログを書こうと思っています。

 それにしてもすぐ近くに、しかもほとんど同じ歳のこんな大作家がいたなんて。。。

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 ついでに(と言っては申し訳ありませんが。。。)

 映画監督の松尾スズキさんのことも知りたいと思い、彼の近刊『現代、野蛮人入門』という本も併せて買ったのでした。

 そして昨晩、『ジヌよさらば〜かむろば村へ〜』映画監督である松尾スズキさんの著書『現代、野蛮人入門』を読み終わりました。

 ふざけたタイトルみたいに思えますが、ご自分の生い立ちを軸にとてもシビアーな人生哲学論を展開されており、かなり引き込まれます。

 まさに『まほろば村へ』の主人公とよく似たメンタリティーの方と知りました。

 なので『かむろば村へ』の映画化を松尾スズキ氏がなさることは運命的必然のように思えます。

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 本を読みながら感じたのは、最近読んだ蛭子能収(えびすよしかず)さんの『ひとりぼっちを笑うな』に通づるところが多いな〜ということです。

  →人づきあいって必要ですか?
 
 どちらも逆説を述べるようにして、私たちが見ない振りをしていること、疑いもしないことに本質的な問いかけをしてきます。

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 本の中身は読んで理解していただいた方が良いようです。

 各章に描かれた松尾スズキさん自筆の「挿し絵」がとてもおもしろく、本の内容も暗示していますのでご紹介したいと思います。

 特に最初の一発目は、この本を出版するときの経緯を感じさせられて笑ってしまいました。
 

 松尾氏は「偽善肯定論」です。漱石の『三四郎』で広田先生が語る話にも通じそうな感じ。

  →偽善家、露悪家、日和見家

 松尾スズキ氏の「仕事感覚」は実におもしろいな〜と思います。

 たとえばこんな文章です。

 ・・・仕事が苦痛であるのは同じです。が、日本人には「店員は愛想よく笑うもの」という様式に対する美意識があるのです。この間、某自動車会社の前を歩いていたとき、社から出て行く顧客に対して、相手が去り、次の角を曲がりきるまでの約3分間、小さくなっていく顧客の背中にお辞儀をし続ける二人の社員を見て、ゾッとしました。事情を知らない人間がそれを見たら、虚空に向かってお辞儀する「純粋お辞儀人間」です。グロテスクだな、と思うと同時に、凄みを感じました。人をゾッとさせる職業は、芸能人だけではないのです。

 本の中で、過去に自分が書いた文章や演劇の脚本や舞台を引用し、それを第三者のようにおもしろがって読んでいるページがけっこうあります。

 それを読んでいる私にもそのおもしろさがよく伝わってきます。

 かつて書いた自分の文章を読んで、自分自身がおもしろい、ためになる、癒やされる、それは実に嬉しいことに違いありません。

 次の文章はとっても「意味深」です。。。

 どのイラストにもブラックユーモアーがあります。

 いがらしみきおさんの漫画とも通づるところが大いにあるようです。

 来月公開の『ジヌよさらば』が楽しみです。(このへんの映画館で上映されるのかな〜?)