ノボノボ童話集「究極の薬」

 秋の夜なべ仕事、ノボノボ童話集第4話です。童話とはいうものの、書き始めると子供向けとは言いがたい作品になってしまいます。子供と大人の中間「子どな」向けということで書き続けてみたいと思います。

ノボノボ童話集

究極の薬

 赤い鳥小鳥 なぜなぜ赤い 赤い実を食べた♪

 童謡の一節が、突然彼の頭に入ってきた。

 それは彼にとって、神のお告げというべきものだった。

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 彼はある病院の付属薬局に勤める薬剤師だ。

 日々患者に同じような薬を出しながら、毎日考えていた。

 「いつか世界をあっと言わせる薬をつくってやるぞ」と。

 その薬が何に効くのか、野心家の彼には関係ない。

 世界初の「とてつもない薬」であれば何でもいいのだ。

 それが突然、彼につくるべき薬は何かを教えてくれたのだ。

 さっき頭の中に響いたのあの童謡が。

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 アルキメデスが浴場から裸で飛び出したがごとく、

 彼も突然薬局を抜け出し、飛ぶように自宅へ帰った。

 自宅の離れを彼は実験室にしていた。

 しっかりと鍵をかけ、さっそく薬つくりを開始した。

 あれこれの薬品やら何やらをフラスコに混ぜ合わせ、

 熱したり冷ましたりを三日三晩。

 ついに赤い薬がたった一錠だけできた。

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 彼はさっそく自らの身体で実験した。

 赤い薬を水で一気に飲み込んだ。

 あっというまに、彼の身体はすべてが真っ赤になった。

 鏡を見て、彼は狂喜し叫んだ。

 「ついに俺は「究極の薬」を完成させたぞ!

 緑の薬を飲めば緑に染まる、

 透明な薬を飲めば「透明人間」になれるんだ」

 ふりあげた手を下ろしたとき、

 机のアルコールランプが倒れた。

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 たちまち離れは火の海となった。

 厳重な戸締まりが仇となり、彼は閉じ込められてしまった。

 それでもすぐに消防車が来た。

 勇敢な消防隊員がまさかりで戸を壊し中に入った。

 必死で彼をさがした。

 彼も必死で助けを求めていた。

 しかし、動くことも声を出すこともすでにできなくなっていた。

 必死の努力にもかかわらず、

 消防隊員は、紅蓮の炎と彼をどうしても識別できなかった。

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 ようやく鎮火した。

 焼け跡に残ったものを見て、みんな声を失った。

 そこにあったのは、すべてが真っ赤な人骨だった。

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