一流のスポーツマン

 大震災の直後、サッカーやら野球やらのスタープレイヤーが、各地の避難所を訪れ被災者を励ましてくれました。一流のスポーツマンとは運動神経だけでなく、感性も豊かで、考え方もしっかりした人のことを云うのでしょう。
 もとサッカー全日本監督の岡田武史さんって、さすがですね。

 この方、いつも仏頂面していて、大きな工場の敏腕管理者というのがお似合いと思っていました。

 で、真面目一徹、その考え方は「効率」一辺倒で、理屈っぽくて、この人に何かを売るのは大変そう・・というイメージを持っていました。

 ところが違うんです!

 「朝日地球環境フォーラム2011」というのが9月に東京で開催され、そこで、ライブトークをしているんです。そのトークのタイトルは「日本人と震災〜未来を変える覚悟〜」

 すっかり見直しました!

 3月11日。岡田氏は、地震と津波による被害をテレビで見て、無力感や焦燥感にさいなまれた。3週間たち、いても立ってもいられず、サッカーボール50個と寝袋を車に積んで東北の避難所に向かった。

 行動する大切さ

 「自分も動き出さないといけない。被災地でサッカーをすることが正しいのかは、わからない。でも、何か行動を起こすことが大切だと思った」

 そして「人間」としての見識の高さ。それは「原発」というものに対する考え方に顕れています。

 「原発は危険だが、そうは言っても、経済のことを考えれば止められない」と、見ないふりをしてきた問題がたくさんある。だが、震災や原発事故が起きて「そうは言っても……」と言えなくなった。今は、物事の本質を考えて行動しなければならない。 

 彼は、地球>生き物>人間>社会という順番でものを考えています。

 物質は全て循環
 「環境問題の本質は何か」。岡田氏は会場に問いかけた。答えを導く小道具として、1辺30センチほどの透明なプラスチック箱の中に1体の人形を入れた。「真空状態の箱に人間が入る場合、生きていくのに必要なものを五つだけ持って入れるとしたら、何を選ぶか」

 会場から「水」「植物」「空気」「土」と答えが挙がった。岡田氏は「微生物」が不可欠だと指摘した。人間の排泄物を土中の微生物が分解し、植物の栄養となることで箱の中に「循環」が生まれる。

 「地球上の物質は全てが循環している。環境問題の本質は、循環だ。それを止めているのが人間活動だ」。ウランを燃やすとプルトニウムができるが、再びウランには戻らない。原発は、循環型でないことが問題だと強調した。

 大事な話はこの後も続きます。それは「直感」についてです。

 話は、地球温暖化へと進む。岡田氏は「温暖化しているのか、本当のところは何百年先にしかわからない。ただ、これが原因だ、怪しいと感じたら、やめなければならない。何か違うと感じる『直感』を信じて進むしかない」と話す。

 このような考え方に至るまでには、全日本監督時代の苦悩の日々がありました。

 力を合わせ継続

 サッカーの監督も、直感が頼りだという。決断することが仕事だが、どのメンバーを選べば試合に勝てるかは誰もわからない。

 1997年、ワールドカップ(W杯)フランス大会予選の途中、代表監督が成績不振を理由に解任され、いきなり自分が監督に。イランとの最終予選の前日、どうしたら勝てるかを考え抜いている中で、「突然、眠っていた遺伝子にスイツチが入った」感覚を覚えた。そして見事、W杯初出場。無心に近い状態で出てきた直感に従った結果だ。

 物事の本質を捉えるためには、直感を鍛えなければならない。いろいろなことにチャレンジし、経験を積むことで勘がさえてくる。どんなことでも一歩踏み出すことが大切。それは環境問題でも同じだ。 

 岡田氏は「一人一人の力は小さいが、力を合わせて続けることで大きなことを成し遂げることができる。これからの世界を変えていくのは、あなたたち、若い世代だ」とエールを送った。

 実に一流の方です。ナショナルチームを率いる監督は、政治や支援企業の意向などにも気を遣い、結局その人達の価値観のまま、スポーツロボットになる可能性も高かったことでしょう。

 そんな困難な立場を引き受けながらも、自らのモラルを大事に考え抜き、たくましく育んできたその精神こそ、スポーツマンの鑑であります。

 この「自分を磨く」精神こそ「スポーツの魂」とするなら、運動神経に関係なく、だれでもが「一流のスポーツマンシップ」を持てることになります。

 それが真の「スポーツ振興」といえるのでは?