懐かしの自販機

 まさか35年も前にお世話になったあの「ユニークな自販機」が、今も健在とは思いもしませんでした。
 今や高級グルメ化した「蕎麦」。(「うどん」のほうはそうでもありませんが)

 近くの町には、「きのこそば」なんと1200円也!というのもあります。

 私が小さい頃は、「そば」といえば「中華そば」のことでした。

 うどんは「玉うどん」という太いもので、これもよく食べていました。

 日本蕎麦はといえば、駅のホームの「立ち食い蕎麦」ぐらい。

 寒い日のホームで食べたあのしょっぱ甘い「立ち食い蕎麦」は、同級生たち定番の思い出話です。

 江戸時代にルーツを持つ「蕎麦切り」を考えれば、「立ち食い蕎麦」こそ蕎麦の本家本元といえるのではないでしょうか。

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 先日の新聞記事でなつかしい「蕎麦」をもう一つ思い出しました。

 私が20代の若き日、仕事帰りにお世話になった自販機の蕎麦でした。

朝日新聞 2014.4.6

自販機うどん、「うまい」と常連客 島根のドライブイン

 島根は出雲そばに代表される、そば文化圏だが、うまいうどんがあると聞いた。それも、自動販売機だという。???

 とにかく行ってみよう。

 浜田市中心部から益田方面へ国道9号を走ると、JR山陰線折居駅近く、「ドライブイン日本海」の看板が見えてくる。名前の通り、日本海がすぐそこだ。

 昭和を思い出させるレトロな店内に入ると、パンなどの自販機に並んで……。 あった。

 「うどん そば」の字体も電飾も古めかしい1台。普通の自販機より大きい。メニューは天ぷらうどんと肉そばの2種類だ。

 ボタンを押すと、待ち時間のカウントダウンが表示される。

 25秒後、「チン」。自販機の下部にある取り出し口に、白い容器がスッと現れた。

 温かいだしに白い麺がうねり、10センチほどのエビ天、ネギ、カマボコが入っている。

 柔らかめの麺が、関西風の薄味のだしとよく合う。エビはプリプリした歯ごたえだ。

 勢いがついて、肉そばも食べてみた。甘辛に味付けられた牛肉はしっかりした歯応えで、その味が、少し太めのそばになじんでいて、これもおいしい。

 どちらも、300円。

 35年前のあの頃は、世の中ほとんど夜中まで働くのは当たり前。月に1,2回の休日ぐらいが関の山というモーレツ仕事社会でした。

 その頃私は電子機器やシステムのメンテナンスをする会社に勤めていました。

 早い話が「修理屋」です。(あいにく不器用で腕が悪く「メカ殺しの川嶋」と呼ばれていましたが。。。)

 出張も多く月の走行距離は4千キロ、同僚たちも似たようなものでした。(さらに週に1,2回泊まり当番もあったし。。。)

 コンビニがようやく出た頃で、まだ仙台にも1,2店という時代でしたから、田舎に出張すると夜中に食べるところなどありません。

 その頃ドライブインの自販機コーナーに「そば・うどんの自販機」が出現したのでした。

 夜中にあったかいできたてのそばが食える!

 寒くて疲れた体にしょっぱ甘いあの蕎麦がなんておいしかったことか!

 私は必ず2杯づつは食べていました。


(私がお世話になっていたのはこんな機械だったような。。。)


(ネットで見つけた写真です。当時はネギやかまぼこも入っていたな〜)

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 私たちの仕事柄からか「いったいどんな仕組みなんだろう?」 と興味を持つ同僚多数。

 機械の中を取り出し口からのぞいた話や、手を伸ばしてカップをとろうとした武勇伝などあれこれ語り合ったものです。

 その頃の機械では、しくみはこんなふうでした。

 本体内部には、ゆでた蕎麦やうどんとネギなどの具が入ったカップがセットされており、出す前にカップに湯が入れられ、上からフタが下りてきます。

 そのまま反転して湯を切ります。これを二回続けます。

 最後につゆが入って取り出し口に押されてきます。

 簡単なしくみですが、なるほど!と感心したものでした。

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 そんなふうにして数年間大変お世話になった自販機だったのですが、ある日突然いっせいになくなりました。

 それは、カップにセットされる具、主にネギから大腸菌やらが検出されたということからでした。

 新聞でこの記事を読み、その頃とってもがっかりしたことを今でも覚えています。

 そんなわけで、今でもある、いや復活した?、というニュースにびっくりし喜んだのです。

 と思って続きを読めばさにあらず。

 自販機の横には、厨房(ちゅうぼう)が見えるカウンターがあり、日中はそこで直接、ラーメンなどを注文できる。

 中の人に声をかけると、ドライブインの営業を始めた浜田洋さん(78)の長女の宇野洋子さん(50)だった。

 洋子さんと夫の克生さん(50)によると、ドライブインは1970年ごろ、トラック運転手向けの食堂として開店。

 85年ごろ、24時間営業の自販機レストランに衣替えした。

 うどんもそばも、洋子さんが厨房で作って器に入れ、自販機にセットしている。

 天ぷらを揚げ、牛肉を煮込む。麺とそばは益田市内の製麺会社、カマボコは地元産を使う。

 機械の中で、器がめぐる間に2回湯通しされ、だしが注がれる仕組み。1日約80食が売れる。

 自販機は30年以上前からあり、今のは「5代目」か「6代目」。10年ほど前から使っているという。

 毎日来る常連客が多いが、ここ5〜6年は古い機械が珍しいらしく、全国からわざわざ食べに来る人もいるほど。

 「昔からあったのに、急に注目されてびっくり。おいしいと言われるとうれしいです」と洋子さん。

 なんと10年も前から機械は製造中止。

 わずかに残っている機械をメンテしてくれる人がいるおかげで、レトロマシンを使い続けていられるらしいんです。

 2年前からドライブイン日本海の経営に携わる益田市の田中康一さん(64)は、県西部と山口県に15台ほどある「うどん自販機」の面倒を見続けている。

 機械は10年以上前に製造が中止され、今では入手できない部品も。

 「全国に100台くらいしかないと思う。他の機械の部品を代用したり、特注で作ったりする」という。

 手作りのよさ半分、機械のおもしろさ半分。

 「形ある限り機械を動かし続けて、独特の味を守りたい」

 何とも懐かしく、また少し切ないお話しではあります。